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第1回ブランデッドムービー研究会レポートVol.1~なぜブランデッドムービーなのか?(世の中を取り巻く状況)~

SNSがマーケティングのトレンドとなり、検索からタイムラインへのシフトが起きた結果、受動的で瞬間的な情報摂取が進み、ネットの活用がテレビ視聴に近づいている。長期的にブランドを育て、売れ続けることを目指すためにはトレンドを追うだけでなく、カスタマージャーニーに着目し、リアルメディアも活用する必要がある。
最近、新たなブランド論として「ブランド・リレーションシップ」の研究が増加している。これはブランドに対する愛着のようなもので、頑健な継続購買、クチコミ、支援、別格化などにつながる。こうした関係を構築するには、顧客経験へのフォーカスが重要だが、その際キャサリン・レモン教授の研究成果が参考になる。なぜなら、カスタマージャーニーにフォーカスする具体的な方法が見えてくるからだ。また、クチコミマーケティングの研究成果によると、オンラインのクチコミは一定の業種にのみ効果がある一方、オンラインのクチコミは広い業種で効果が期待できる。
マーケティングにはどんなケースにも当てはまる必勝パターンはない。まず、マーケティングの目的を明確にすることが重要だ。合わせて、社外のマーケティング担当者との情報交換も有益である。

 


 

青山学院大学 経営学部マーケティング学科 教授 久保田進彦氏

 

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検索からタイムラインへの変化が意味することとは?

ここ数年のマーケティングの大きなトレンドとして「SNSでシェアや拡散」があげられるだろう。では、この流れはいつから始まったのか? 「Googleトレンド」で調べてみると、2009年の4月ぐらいから「ツイッター」という言葉の検索回数が、20111月ぐらいから「フェイスブック」という言葉検索回数が増えている。またこの頃から「SNS」という言葉の検索回数も増えている。そして、入れ替わるようにして「mixi」 のようなCGMConsumer Generated Media)への注目度が下がっていった。

これは単に言葉の変化にとどまらず、「タイムライン」という新しいコンセプトが一般的になるということでもあった。つまり「検索」から「タイムライン」へのシフトが起きたのだ。Googleトレンドをみると、「タイムライン」という言葉の検索回数が増えるにつれて「検索」の回数が減っている。

この事実は、何を意味しているのだろう? 自ら調べる検索とは違い、タイムラインは受動的で瞬間的な情報接触である。それはネットのテレビ化ともいえる。ネットの利用スタイルがテレビ視聴に近づいているわけである。その最たる例が、YouTubeの自動再生であろう。まるでテレビのように、何もしなくても、次から次へと動画が流れていく。このような「受動的で瞬間的な接触の増加」は、マーケティング担当者が強く意識すべきことである。

 

SNSでシェアや拡散を狙う戦略が今後も有効なのかについて、あらためて考えてみよう。20162月に発表された、日経デジタルマーケティング「第5回 ソーシャル活用売上ランキング」によると、1位から20位のほとんどの企業が小売業か飲食サービスで、これらは瞬発力が重視される企業だと言える。この結果から、タイムライン型の情報チャネルは瞬発的なコミュニケーションに適していることが分かる。他方、長期的にブランドを育てたい企業にとっては、タイムライン型のチャネルをストレートに活用するのは得策ではないと推察される。広告の世界ではコミュニケーションをストック型とフロー型に分類することがあるが、タイムライン型の情報チャネルはフロー型のコミュニケーションに適している。

ここで言いたいのは、「“SNSでシェア”とか“ネットで拡散”という戦略が間違っている」ということではない。フロー型のコミュニケーションだけでなく、ストック型も選択肢に入れ、各企業の戦略に応じて使い分けることが重要なのだ。マーケティングの目的は「売れること」だけでない。同時に「売れ続ける」ことも重要である。そのためには、フロー型とストック型のバランスをとる必要がある。ストック型のマーケティングを推進するには、カスタマージャーニーという概念が参考になる。顧客が商品やサービスを知ってから購買するまでのプロセス、特にその顧客の行動や思考、感情が変化していくプロセス、まさに「ジャーニー」に注目することが重要なのだ。加えて重要なのは、私たちはリアルな世界を生きているという事実を忘れないことだ。デジタルメディアだけでなく、リアルメディアを組み合わせることも必要である。

 

 

ブランドイメージ訴求から愛着へ

ストック型のマーケティングでは、ブランディングが重要になる。2000年代に入って、一時期「ブランディングよりもネットマーケティング」という流れが顕著になった。しかし最近では、ブランドマネジメントの重要性が再認識されつつある。研究者の間でも“新たな”ブランド論の研究が増えている。90年代に流行したブランド論では、ブランドそのものイメージ訴求に力点が置かれた。性能やデザインが優れているという「認知的イメージ」や、かわいい・おしゃれといった「感情的イメージ」が重視されていたのだ。ところが最近のブランド論では、消費者とのつながりや、親しい関係性という新たな視点が強調されている。ここで間違えてはいけないのは、「伝統的な視点が不要になったわけではない」ということだ。伝統的な視点に新たな視点加わったのである。いうまでもなく、両方をマーケティングに活かすことが重要である。

新たな視点のマーケティングで重視されている消費者とのつながりは、「ブランド・リレーションシップ」と呼ばれている。これは、ブランドに対する愛着のようなものである。消費者がブランドに愛着を持つことの利点は、頑健な継続購買、推奨(クチコミ)、支援(サポート)、別格化などがある。支援の例としては、商品開発の新しいアイディアの提供や改善点の提示。別格化としては、そのブランドの新商品が出るまでほかのブランドの商品は買わない、悪いクチコミを退治してくれるなどである。

 

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時間軸で顧客経験を分析することが重要

ブランドに愛着をもってもらうためには、顧客経験にフォーカスすることが重要である。言い換えると顧客の立場で考えることが重要なのだ。そのためには、キャサリン・レモン教授の研究成果が参考になる。レモン教授は、「現在の顧客経験」は「過去の経験」に影響されていると指摘する。さらに「現在の経験」は「未来の経験」につながっている。つまり、現在の顧客経験だけにフォーカスしてもダメだということだ。さらにレモン教授は、現在の顧客経験を「購買前段階」「購買段階」「購買後段階」の3つに分けている。つまり、買う前と買った後のことも視野に入れる必要があるということだ。この指摘を言い換えると、カスタマージャーニーに着目することが重要だということだ。すでに、カスタマージャーニーの重要性について説明したが、レモン教授の指摘を参考にすると、まず顧客の過去の経験にも注目することが重要だとわかる。次に、現在の顧客経験を購入前・購入・購入後にわけ、各段階のタッチポイントを明らかにする。これらのタッチポイントには、企業がコントロールできるものと、できないものがある。このように全体像を把握した上で、具体的なマーケティング施策に落とし込んでいくことが重要なのだ。マーケティング手法として「ペイドメディア」「オウンドメディア」「アーンドメディア(earned media)」の使い分けの重要性が指摘されることがあるが、いきなり使い分けを考える段階に進んでしまうと、カスタマージャーニーの一部を無視してしまう可能性がある。

 

クチコミをうまく活用するポイント

昨年、私はエド・ケラーの著作を翻訳したが(『フェイス・トゥ・フェイス・ブック クチコミ・マーケティングの効果を最大限に高める秘訣』有斐閣)、この中にアメリカ人の口コミに関する研究結果が紹介されている。それによるとオンラインを介在したクチコミ比率が10%、残りの90%がオフラインという結果が出ている。これを業界別に見ていくと、オンラインのクチコミ比率が高いのはメディアとエンターテインメント、自動車、パソコンなどだった。言い換えると、これらの3分野以外では、オンラインによるクチコミはあまり期待できないのだ。一方、オフラインのクチコミは、業界によってあまり変化がないという特徴がある。

ただし、オンラインのクチコミを上手く利用する方法もある。それはオンライン上のクチコミを見た人が、オフラインでクチコミをするような方法を考えることだ。別な研究結果によると、特に親友や家族からのクチコミは大きな影響があることがわかっている。

 

重要なのはマーケティングの目的を明確にすること

これまで説明したように、マーケティングにはどんなケースにも当てはまる必勝パターンはない。そこで大切になってくるのは、何のためにマーケティングを行うかを考えることだ。フロー型なのかストック型なのか、オンライン上で販売したいのか来店してほしいのか、見て欲しいのは購買前の人か購買後の人か…。これらを整理するためには、下のようなフォーマットを活用するのも一つの方法だ。その際、空白の部分があっても構わない。埋められる部分だけでも埋めてみると、新たな気づきがあるだろう。ほかにも、特に社外のマーケティング担当者と情報交換することは有益である。特に、お互いに悩みを出し合うことで、思わぬアイディアや解決策が見えてくることがある。

 


 

1回ブランデッドムービー研究会レポート「Vol.2~企業のケーススタディ:アウディジャパン、コーセー、アクサ生命保険、カナダ観光局~ブランデッドムービーという手法/具体的な制作、運用、検証方法について」はこちら
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